保育園設立の規制が緩和されてから、保育園の運営は社会福祉法人以外にも株式会社やNPO法人など様々な企業が参入しています。
運営主体によって園の特徴や待遇、労働環境が変わってくるので、どの運営主体での元で働くかは保育士にとって重要な問題です。
しかしこれから保育士として働こうとしている方や転職を考えている方の中には「運営主体によって具体的にどんな違いがあるの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
この記事では保育園の主な運営主体である社会福祉法人と、近年増加している株式会社の保育園についてそれぞれの特徴や違い、実際に働く際のメリットデメリットを紹介します。
公立と私立だけじゃない?保育園の運営主体の違い
かつて保育園と言えば地方自治体が運営する公立保育園と社会福祉法人が運営する私立保育園の二種類のみでした。
しかし2000年に保育園の設置主体制限が撤廃されたことにより、私立保育園は社会福祉法人以外にも株式会社やNPO法人などが運営することが可能になりました。
現在、私立の保育園の割合は社会福祉法人が86.9%、株式会社が4.9%、学校法人が2.8%、その他が5.4%となっています。
以前からあった社会福祉法人が多数を占めていますが、株式会社の運営する保育園も着実に増加しています。
小規模保育園に限れば、社会福祉法人が17.9%、株式会社が38.2%、学校法人が7.5%、その他が36.4%となっており、株式会社が多くを占めていることがわかります。
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私立保育園の多くを占めている社会福祉法人と株式会社について、特徴やメリットデメリットを詳しく見ていきましょう。
社会福祉法人の保育園の特徴
社会福祉法人とは保育や介護などの社会福祉事業を行うことを目的として設立された公益法人です。
都道府県や政令指定都市、中核市の所轄であり、非営利組織であるため資金は補助金や寄付金で賄います。
保育事業においては、主に保育園や認定こども園の運営を行っています。
社会福祉法人の保育園の特徴としては、以下の点が挙げられます。
- 補助金や税制面での優遇措置がある
- 医療福祉機構からの融資が低金利で受けられる
- 家族や親族で運営している園が多い
- 姉妹園や分園が少ない、もしくはあっても同じ地域内であることが多い
社会福祉法人の保育園で働くメリット
社会福祉法人は非営利組織であり、補助金や税制面での優遇があることがわかりました。
では保育士が社会福祉法人の保育園でで働くことのメリットは何でしょうか。
ここでは3点に分けて解説します。
経営が比較的安定している
社会福祉法人は非営利組織のため、運営費用は補助金です。
税金の免除や低金利で融資を受けられるなどの優遇措置もあり、倒産リスクは低いと考えられるでしょう。
経営が安定しているので保育士の待遇や福利厚生も充実している傾向にあります。
就職活動の際には園ごとの給料や福利厚生をしっかりと調べておきましょう。
保育方針がしっかりしている
社会福祉法人は長年保育園を運営してきているので保育方針がしっかりと定まっているところが多いでしょう。
保育士の就職活動では自分の保育観に合った保育方針の園を選ぶことが大切です。
はっきりと方針の定まっている社会福祉法人の保育園は自分の保育観と照らし合わせて選ぶことができるので就職のミスマッチを防ぐことができます。
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経験豊富なベテラン保育士がいる
社会福祉法人の保育園は長年の経験を持つベテラン保育士や中堅保育士が揃っている傾向にあります。
若手の保育士は先輩保育士から実際の経験で培ったノウハウや知恵を教えてもらうことができるでしょう。
長年運営されてきているので、指導体制が整っていたり研修が充実していたりと保育について学びながら働ける環境です。
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社会福祉法人の保育園で働くデメリット
社会福祉法人の保育園は雇用や指導体制に安定感があることがメリットだとわかりました。
では反対に社会福祉法人の保育園で働くデメリットとは何でしょうか。
ここからはデメリットについて3点に分けて解説します。
家族経営の場合は人間関係が複雑になりがち
社会福祉法人の保育園は家族経営が多い傾向にあります。
理事長や園長など主要な役職のほとんどが親族で固められていたり、同僚の保育士が姉妹園の園長の身内だったりすることもあります。
園長の親族の権力が強いため同じ保育士同士でも園長の身内には気を遣わないといけないといったこともあり、人間関係が複雑になりやすいでしょう。
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新しいことにチャレンジしにくい
社会福祉法人の保育園には長年運営してきた実績があるので、行事や仕事のやり方など今までの慣習にこだわりを持つ園も少なくありません。
年功序列の風潮が強く、若い保育士の意見はなかなか聞き入れてもらえないといった風通しの悪さを感じることもあります。
非効率的な仕事のやり方を続けることでなかなか労働環境が改善しないという問題を抱えている園もあるかもしれません。
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施設や遊具が古いことも
社会福祉法人の保育園の運営資金は補助金で賄われているため、業績による予算の変動がほとんどありません。
毎年同じような予算でやりくりするので、施設などの設備への投資も限られたものになります。
安全性に問題がなければ施設や遊具は古いままであったりする園も多いでしょう。
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良くない噂も?株式会社の保育園の特徴
2000年に保育園の設置主体制限が撤廃されて以降、主に都市部を中心に増加しているのが株式会社の保育園です。
株式会社は社会福祉法人と違い営利を目的とした法人で、株式を発行し、投資家から資金を集めて事業を運営します。
株式会社の保育園の特徴としては、以下の点が挙げられます。
- 営利法人なので効率性を重視
- 保護者のニーズに合わせたサービスの提供を行っている
- キャリアップの道筋が多様
- 姉妹園や分園が多く、地域も広範囲にわたる
「株式会社の保育園はあまり良くない」といった声が聞かれることがあります。
社会福祉法人の保育園に比べると歴史も浅いので何となく良いイメージがない方もいるかもしれません。
また株式会社は保育園を全国各地で経営しているので働いていた人数が多く、口コミが出回りやすい傾向にあることも関係していると考えられます。
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社会福祉法人と株式会社の補助金や税金の違い
社会福祉法人と株式会社の補助金や税金の違いについて表にまとめました。
社会福祉法人 | 株式会社 | |
特性 | 非営利 | 営利 |
事業目的 | 福祉事業であること | 特になし |
法人税 | 原則非課税(収益事象で所得が生じた場合、所得の22%課税) | 所得の30% |
都道府県税 | 原則非課税 | 課税 |
市町村税 | 原則非課税 | 課税 |
固定資産税 | 社会福祉事業用の固定資産は非課税 | 課税 |
事業税 | 原則非課税 | 課税 |
施設整備費の補助金 | あり | なし |
運営費の補助金 | あり | あり |
自治体による補助金加算 | あり | 対象外が多い |
開設時の低利融資 | 医療福祉機構より低利融資 | なし |
株式会社は営利企業のため補助金はほとんどなく、税金は全て課税されます。
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園長や保育士の給料の違い
社会福祉法人と株式会社では保育士の給料は違うのでしょうか。
両者の平均給与額をまとめてみました。
社会福祉法人 | 株式会社 | |
給与額 | 給与額 | |
施設長 | 547,834円 | 346,324円 |
保育士 | 258,901円 | 227,781円 |
※常勤職員のみ
※給与は月額+賞与の12分の1が含まれる
施設長、保育士共に社会福祉法人の方が給料が高くなっています。
補助金が支給されていたり税制面で優遇措置が取られているので、保育士の待遇も安定していそうです。
株式会社の保育園の給与額が低い理由としては、まだ歴史が浅く職員の勤続年数が少ないことが大きいでしょう。
実際、株式会社の園長の平均勤続年数は10.4年、保育士は4.1年、社会福祉法人の園長は25.3年、保育士は10.4年で両者とも半分にも及びません。
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株式会社の保育園で働くメリット
株式会社の保育園は社会福祉法人とは経営の仕組みが違うことがわかりました。
では保育士にとって株式会社の保育園で働くメリットとは何でしょうか。
ここでは3点に分けてメリットを解説します。
若手が中心なので風通しが良い
株式会社の保育園は新しい園が多く、保育士も比較的若い方が中心です。
保育園としての歴史も浅いので古くからの非効率的な慣習などもありません。
自分の考えや意見をどんどん主張していける風通しの良い職場が多いでしょう。
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キャリアアップの道筋が多い
株式会社の保育園では実力があれば、新規オープン園の園長を任されるなど保育園の立ち上げから関わることもできます。
また企業によっては主任や園長など保育現場でのキャリアアップの他にも運営サポートや保育士の教育業務など様々な道筋が開けるでしょう。
株式会社の保育園では広い視野を持って自分のキャリアを考えることが可能です。
労働環境の改善に積極的な傾向
株式会社はコンプライアンス意識が高いので保育士の労働環境の改善にも積極的な傾向にあります。
今まで保育業界では暗黙の了解となっていたサービス残業がなかったり、有給休暇を取りやすかったりと働きやすい環境づくりが行われています。
効率的に仕事を行うために業務の簡素化に取り組んでいる園も多いでしょう。
株式会社の保育園で働くデメリット
株式会社の保育園ならではのメリットを紹介しました。
では反対に株式会社の保育園で働くことによるデメリットとは何でしょうか。
デメリットについて3点に分けて解説します。
ベテランがいないので教育体制が不安定
若手の保育士が多く風通しが良い反面、ベテラン保育士がいないので教育体制が不安定でもあります。
トラブルが発生したときや咄嗟の判断が必要になる場面でも、長年の経験を持つベテランに頼れないことは保育現場において大きなデメリットと言えるでしょう。
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経営リスクがある
株式会社は営利企業のため、利益がでないと経営が難しくなります。
社会福祉法人もリスクが全くないわけでもありませんが、株式会社の方が経営困難や倒産のリスクは高くなるでしょう。
保育事業が景気に左右されることはほとんどありませんが、保育以外の事業が上手くいっていないと保育士の待遇にもしわ寄せがくることもあるかもしれません。
行事などの前例がないことが多い
株式会社の保育園は続々と増えており、毎年全国各地で新規園がオープンしています。
新規園に勤務する場合は行事などの前例がないので一から考えて形にしていかないといけません。
普段の保育業務にプラスして行事を全て一から作り上げるとなると保育士の負担は大きいでしょう。
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実際の求人はどんな感じ?
社会福祉法人と株式会社の保育園について、それぞれの特徴や保育士にとってのメリットデメリットなどを解説してきました。
これから保育園への就職や転職を考えている方は実際の求人内容にはどんな違いがあるのか気になることと思います。
ベスト保育に掲載している求人を参考に、社会福祉法人と株式会社それぞれの求人内容を見比べていきましょう。
東京都足立区の例
東京都足立区にある社会福祉法人と株式会社の保育園の求人です。
月給:233,900円〜(+経験給)
賞与:年3回(実績計3.2ヶ月)
休日:年間休日110日以上
福利厚生:各種社会保険完備、宿舎借上制度、企業年金など
月給:235,000円〜275,000円
賞与:年2回(約2ヶ月分 ※業績による)
休日:日、祝・年末年始休暇
福利厚生:各種社会保険完備、退職金制度、引っ越し代一部負担など
千葉県船橋市の例
千葉県船橋市にある社会福祉法人と株式会社の保育園の求人です。
月給:197,880円〜(+経験給)
賞与:実績計3.5ヶ月分
休日:年間休日数115日
福利厚生:各種社会保険完備、通勤手当、退職金制度など
月給:212,000円〜264,000円
賞与:2ヶ月
休日:年間休日121日
福利厚生:・社会保険完備、福利厚生サービス、従業員持株会など
埼玉県さいたま市の例
埼玉県さいたま市にある社会福祉法人と株式会社の保育園の求人です。
月給:223,300円〜250,000円
賞与:年2回(4ヶ月分)
休日:完全週休2日制
福利厚生:・社保険完備、退職金、社宅制度など
月給:200,000円〜250,000円
賞与:5ヶ月分(2年目参考)
福利厚生:・各種社会保険完備、交通費支給、時短勤務制度など
3つの自治体を参考に求人を比較してみましたが、社会福祉法人と株式会社どちらかが突出して待遇が良いということはなさそうです。
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運営主体や園の特徴を把握して自分に合う職場を探そう
私立保育園の主な運営主体である社会福祉法人と株式会社の特徴や違いについて解説してきました。
「社会福祉法人と株式会社、どちらの保育園が良いか」は、自分が何を求めているかで変わってくるので一概には言えません。
園の特色や待遇に関しては運営主体だけでなく園ごとにも大きな違いがあります。
就職活動では運営主体の違いや園ごとの特徴をしっかりと調べて、自分に合う職場を探しましょう。