5歳児の担任保育士には、小学校への引き継ぎ資料である「保育所児童保育要録」の作成という重大な仕事があります。
要録には1年間を振り返って自分が行ってきた指導やクラスの子どもの成長の様子を記入していきますが、初めて年長児の担任をもった場合など「どんなふうに書けば良いかわからない」と悩んでしまうこともあるでしょう。
この記事では、保育所児童保育要録の様式や記入項目、具体的な例文や書き方のポイントまで詳しく解説します。
平成30年度の改正や幼稚園、認定こども園の要録との違いなども併せて解説します。
ぜひ、要録作成の参考にしてみてくださいね。
保育所児童保育要録とは
そもそも保育所児童保育要録とは何でしょうか。
保育所児童保育要録は、小学校へ引き継ぐために子どもの保育園での成長過程や発達、指導の過程、その他特記事項などを記したものです。
主に最終年度の1年間における保育の過程と子どもの成長を中心に記入するので、年長時の担任が作成します。
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保育所児童保育要録の目的
保育所児童保育要録を作成する目的は、保育園と小学校が子どもに関する情報を共有して子どもの育ちを支え、今後のさらなる成長へ繋げることです。
小学校での指導に活かすことができるよう、記入する際の留意点として以下のことが定められています。
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送付状を添えて小学校へ
保育所児童保育要録を書き終えたあとは園長や主任保育士に中身をチェックしてもらい、訂正がある場合は速やかに書き直しましょう。
保育所児童保育要録の原本は子どもが小学校を卒業するまでの間は園で保管し、原本の写しは送付状を添えた上で直接小学校へ送付します。
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保護者から開示請求があった場合
保育所児童保育要録は個人情報保護法に基づき、原則小学校への引き継ぎという目的外の使用はしません。
しかし、保護者から開示請求があった場合は以下の内容で行うことが定められています。
- 原則両親のみとする
- 施設長承認のうえ、別紙に記名・捺印をしてもらう
- 施設長立会いの下、事務室内でおこなう
- 保護者が記入・訂正・修正をすることはできない
- 質問及び異議の申し立ては受け付けない
平成30年度の改正
子どもの育ちを支える資料としてより現場の実態に即して活用できるようにするため、平成30年度に保育所児童保育要録の見直しが行われました。
保育の実践に合った記入方式になったため、保育士は記入しやすくなり、小学校との共有もよりスムーズになりました。
変更になった2点について紹介します。
養護と保育の記入欄が一つに
以前は養護に関わる事項と教育に関わる事項の記入欄が別で設けられてました。
しかし実際の保育現場では養護と保育が一体的に展開されていることを踏まえ、記入欄が統一されました。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を様式に明記
子どもの育ちをより適切に表現できるよう、保育所保育指針の5つ「領域のねらい」に加えて、新たに「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を参照することになりました。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は卒園までの到達目標ではないことに留意しなければなりません。
あくまで成長のめやすとして捉え、一人ひとりの子どもが保育園生活の中でどのように成長したのかを記します。
保育所児童保育要録の様式と記入例
保育所児童保育要録についての基本的な内容を紹介してきました。
ここからは実際の保育所児童保育要録の内容について見ていきます。
様式や記入項目、記入する内容や例文も紹介するので、要録作成の参考にしてみてください。
入所に関する記録
保育所児童保育要録は「入所に関する記録」と「保育に関する記録の」2つに分かれています。
1枚目の入所に関する記録は、子どもの氏名・住所・誕生日・性別、保護者の氏名・住所、入所・卒所年月日など基本情報を記入します。
様式は以下の通りです。
引用:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202912.pdf
保育に関する記録
2枚目の保育に関する記録は、園での保育の過程や子どもの育ちについて具体的に記入します。
様式は以下の通りです。
項目は大きく「保育の過程と子どもの育ちに関する事項」と「最終年度に至るまでの育ちに関する事項」の2つに分かれているので、それぞれの内容と例文を詳しく紹介します。
保育の過程と子どもの育ちに関する事項と例文
保育の過程と子どもの育ちに関する事項の欄は、最終年度の1年間での子どもの育ちに注目して記入します。
「最終年度の重点」「個人の重点」「保育の展開と子どもの育ち」「特に配慮すべき事項」の4つで構成されています。
最終年度の重点
最終年度の重点は、年度の始めに作成する年間指導計画を参考にしながら、この1年間どのようなねらいの中で過ごしてきたかを記入します。
5歳児クラス全体のねらいに基づいて記入するので、この欄は全ての子どもが同じ内容になります。
例文
・意欲的に遊びや生活、行事に取り組み、友達と一緒に園生活を楽しみながら主体的に行動して充実感を味わう。
・友達や保育士の話をよく聞き、相手の気持ちを受け止めながら、自分の思いや考えを言葉にして伝える。
個人の重点
個人の重点は、1年間を振り返って対象の子どもの指導について特に重視してきたことを記入します。
保育記録を参考にして子どもの姿や保育士との関わりを振り返りながら書いてみましょう。
例文
・保育士や友達に自分の考えたことや経験したことを伝え、十分に自己発揮する喜びを感じる。
・様々なものに興味を持ち、遊びに取り入れたり新しい発見を友達と共有する楽しさを味わう。
保育の展開と子どもの育ち
保育の展開と子どもの育ちは、最終年度の1年間で特に成長が著しかった点について記入します。
小学校での指導に活かされるよう「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を参照しながら、指導の過程と育ちつつある姿をわかりやすく記入しましょう。
例文
・縦割りの合同保育では、年下の子どもと一緒に遊んだりお世話をしたりと積極的に関わっていた。年長児の自覚を持ち、思いやりをもって接する姿が見られた。
・昆虫に関する図鑑や絵本をよく見ており、多くの名前を覚えている。園庭にいる虫についても詳しく、友達に名前や捕まえ方を教えている姿がみられた。
・勝ち負けのある遊びでは負けると投げやりになって途中で遊びから抜け出す様子があった。保育士が悔しい気持ちに寄り添うことで感情に折り合いをつけて遊びを継続していた。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の全ての項目について触れる必要はなく、全体的かつ総合的に捉えることがポイントです。
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特に配慮すべき事項
特に配慮すべき事項には、食べ物アレルギーなど子どもの健康に関することや就学後の指導で配慮が必要なことについて記入します。
例文
・卵アレルギーがあるため、給食は除去食を提供している。
・生まれつきの疾患があり、定期的に県外の病院へ通院している。
最終年度に至るまでの育ちに関する事項と例文
最終年度に至るまでの育ちに関する事項は、入所から最終年度までの育ちの姿について記入します。
記入する内容は、最終年度における子どもの姿を理解するために重要だと考えられる事柄を選びます。
「0歳児では~」「3歳児では~」など年齢ごとに記入すると良いでしょう。
例文
・0歳児では保育士との触れ合い遊びを喜び、遊びが終わると「もう一回」と指を立てて同じ遊びを繰り返すことを楽しんでいた。
・3歳児クラスへの進級当初はお気に入りのおもちゃを友達に取られないように囲っていたが、新しいクラスでの生活に慣れていくにつれ、友達とおもちゃの貸し借りを行いながら一緒に遊ぶことを楽しむようになった。
保育所児童保育要録を書くポイント
保育所児童保育要録の実際の様式や項目、例文について紹介してきました。
どんなことを書けば良いのか、少しずつイメージができてきたかと思います。
ここでは実際に保育要録の作成に取り掛かる前に、押さえておきたいポイントについて紹介します。
イメージしやすい表現で
小学校の先生は子どもの実際の姿を知らないので、要録を読んでイメージするしかありません。
子どもの姿をイメージしやすいように一人ひとりの特徴を捉えて、具体的でわかりやすい表現で記入するようにしましょう。
普段からメモをとる習慣を
普段から子どもの様子のメモをとる習慣をつけていると、要録の作成時に役に立つでしょう。
1年間を通してこまめにメモを取ることで子どもの特徴的な姿や成長が浮かび上がってくるはずです。
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ネガティブワードは避ける
「○○ができなかった」といったネガティブな情報だけでは、小学校の先生はどう関われば良いかわかりません。
「○○することで子どもの姿に変化があった」など大人の関わり方を具体的に記しましょう。
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子どもの姿を他の保育士と共有する
子どもたちは環境や相手が変わると違う姿を見せるものです。
担任保育士だけでなく、他の保育士と見取り方を共有することで子どもの姿を多角的に捉えることができるでしょう。
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先輩保育士の書き方を参考に
文章の組み立て方や表現方法に迷ってしまった時は、先輩保育士が作成した要録を参考にしてみましょう。
実際に過去に作成された要録を参考にすることで、具体的な書き方やコツが見つかるかもしれません。
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誤字脱字に注意
保育所児童保育要録は重要な書類なので誤字脱字がないように注意しましょう。
手書きの場合は修正ペンの使用はNGなので、間違えないよう細心の注意を払って記入します。
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幼稚園、認定こども園の要録はどう違う?
幼稚園や認定こども園の場合も、小学校へ引き継ぐための要録を作成します。
幼稚園や認定こども園の要録は保育所児童保育要録とは名称や項目に異なる点があるので、ここではどんな違いがあるかについて解説します。
幼稚園は「幼稚園幼児指導要録」
幼稚園の要録は、幼稚園幼児指導要録と呼ばれています。
子どもの基本情報を記入する「学籍に関する記録」と園での指導の過程や子どもの姿を記入する「指導に関する記録」に分かれています。
保育所児童保育要録と大きく違うのは、卒業年度だけでなく毎年記録を書く必要があるという点です。
認定こども園は「幼保連携型認定こども園園児指導要録」
認定こども園の要録は、幼保連携型認定こども園園児指導要録と呼ばれています。
子どもの基本情報を記入する「学籍等に関する記録」と園での指導の過程や子どもの姿を記入する「指導等に関する記録」に分かれています。
幼稚園と同じく卒業年度だけでなく毎年記入する必要があり、「満3歳未満の園児に関する記録」欄もあるので未満児クラスも毎年記入します。
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充実した要録の作成で小学校への引き継ぎをスムーズに
保育所児童保育要録の具体的な内容や書き方、例文について紹介してきました。
保育園での子どもの姿を正確に小学校へ伝えることは、長期を見据えて子どもの育ちを支えていくために非常に重要です。
年度末は卒園式の準備や卒園製作などバタバタと忙しくなる時期なので、要録の作成はなるべく余裕を持って早めに取り掛かるよう心掛けましょう。
小学校へのスムーズな引き継ぎを行えるよう、今回紹介したポイントを押さえながら充実した内容の要録を作成してくださいね。