保育士は重労働・低賃金の仕事だと言われています。
実際に保育士として働いている方の中にも、責任の重さと給料が見合っていないと感じている方は多いのではないでしょうか。
国や自治体は近年、保育士の賃金を上げるため様々な処遇改善の取り組みを行っています。
しかし国による保育士の処遇改善は2種類に分かれていたり、仕組みや手当がそれぞれ異なっていたりと制度がわかりづらいと感じている方もいると思います。
この記事では保育士の処遇改善の仕組みやキャリアアップ研修について、わかりやすく解説していきます。
保育園選びはもちろん、エリアごとの処遇改善費や借上社宅制度、給与相場などの情報も専任のコンサルタントがお調べし細かくご説明しています!
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保育士の現状と処遇改善について
共働き世帯の増加と共に保育園の需要が増えている今、保育士不足と待機児童問題は深刻です。
厚生労働省によると、保育士資格を持っていても現場で働いていない潜在保育士は現在約95万人もいるとされています。
東京都保育士実態調査報告書によると、過去に保育士として就業した者が退職した理由の第2位が「給与が安い」となっており、給料の低さが保育士不足の大きな原因であることがわかります。
そこで国は保育士の給料を上げるため、平成25年より段階的に処遇改善加算の制度を設けました。
実際に処遇改善加算ができてからの保育士の年収の推移を厚生労働省が公開しています。
年度 | 保育士の平均年収 |
平成25年 | 310万円 |
26年 | 317万円 |
27年 | 323万円 |
28年 | 327万円 |
29年 | 342万円 |
30年 | 358万円 |
令和1年 | 364万円 |
この資料によると、保育士の年収は毎年少しずつ上がってきているようです。
では、保育士の処遇改善加算とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
また保育士の給料にはどのように反映されているのでしょうか、詳しく見ていきましょう。
保育士のための2つの処遇改善加算
国による保育士の処遇改善加算は、処遇改善加算Ⅰと処遇改善加算Ⅱの2種類があります。
処遇改善加算ⅠとⅡは目的や仕組み、手当などがそれぞれ異なっています。
ここでは2つの処遇改善加算について解説していきます。
処遇改善加算Ⅰ
処遇改善加算Ⅰは平成27年に始まった保育士の賃金のベースアップを目的とした制度です。
職員の平均経験年数に応じて賃金が改善されていくという制度で、賃金の安定的な上昇を図ることが可能になりました。
加算の対象は正職員のみでなく非常勤職員を含む全ての職員とされています。
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処遇改善加算Ⅰの仕組み
処遇改善加算Ⅰの仕組みは、「基礎分」「賃金改善要件分」「キャリアパス要件分」の3点から構成されています。
基礎分とは
基礎分は職員1人当たりの平均経験年数に応じて加算率を設定(2~12%)されています。
加算額については適切に昇給等に充てることが決められており、当該施設内のみ充当可能です。
職員の平均経験年数は現在勤務している施設の他にも、
- 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校、 専修学校
- 社会福祉事業を行う施設・事業所
- 児童相談所における児童を一時保護する施設
- 認可外保育施設 ・病院、診療所、介護老人保健施設、助産所
を含めて算出することができます。
賃金改善要件分とは
賃金改善要件分は基準年度から賃金改善を行い、賃金改善計画書と賃金改善実績報告書を提出している施設に加算されます。
加算率は5%(平均勤続年数が11年以上の施設は6%)とされています。
加算額については、確実に職員の賃金改善に充てることが定められており、法人内の他の施設への充当も可能です。
キャリアパス要件分とは
キャリアパス要件分は、
- 役職や職務内容等に応じた勤務条件・賃金体系を設定
- 資質向上の具体的な計画策定
- 計画に沿った研修の実施や機会の確保、職員への周知
を行っている施設に加算されます。
キャリアパス要件分は賃金改善要件分の5%(または6%)に元から含まれているので、要件を満たさない場合は賃金改善要件分が2%減額されます。
手当はいくらもらえる?計算方法は?
処遇改善加算Ⅰによる助成金は施設を通して保育士に処遇改善手当として支給されます。
保育士
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処遇改善加算Ⅰの加算率は施設ごとに算出され、手当の配分も施設ごとの対応となります。
- 基礎分は施設内のみ充当可能
- 賃金改善要件分(キャリアパス要件分含む)は法人内の他の施設への充当も可能
以上の枠内でどのように賃金改善をするかは施設に委ねられています。
よって同じ経験年数であっても勤務する施設ごとに保育士個人がもらえる手当の額は異なっています。
処遇改善加算Ⅱ
処遇改善加算Ⅱは平成29年から始まった保育士のキャリアアップを目的にした制度です。
保育士の給料が他の職種より低い理由には、役職が少ないためキャリアアップが難しく賃金も上がらないという要素がありました。
そこで処遇改善加算Ⅱによって新たに増設された役職につくことで、給料アップが可能になりました。
役職につくには必要要件を満たし、キャリアアップ研修を受けることが必要です。
増設された新たな役職
今まで保育士の役職には園長と主任保育士などしかありませんでした。
保育士のキャリアアップの機会を増やすため、処遇改善加算Ⅱでは新たに副主任保育士、専門リーダー、職務分野別リーダーといった役職が増設されました。
副主任保育士とは
副主任保育士は主任保育士の下につく中堅リーダーです。
処遇改善は月額4万円で、役職につく要件は以下の通りです。
- 経験年数概ね7年以上
- 職務分野別リーダーを経験
- マネジメント+3つ以上の分野の専門研修を修了
- 副主任保育士としての発令
専門リーダーとは
専門リーダーも副主任保育士と同じく、主任保育士の下につく中堅リーダーです。
処遇改善も副主任保育士と同じく月額4万円で、役職につく要件は以下の通りです。
- 経験年数概ね7年以上
- 職務分野別リーダーを経験
- 4つ以上の分野の専門研修を修了
- 専門リーダーとしての発令
職務分野別リーダーとは
職務分野別リーダーとは一般保育士の上の若手リーダーです。
処遇改善は月額5千円で、役職につく要件は以下の通りです。
- 経験年数概ね3年以上
- 担当する職務分野の研修を修了
- 修了した研修分野に係る職務分野別リーダー(※)としての発令
(※)乳児保育リーダー、食育・アレルギーリーダー等
(※)同一分野について複数の職員に発令することも可能
要件を満たしていても必ず役職につけるとは限らないので注意が必要です。
キャリアアップ研修とは
キャリアアップ研修とは職務内容に応じた専門性の向上を図るため創設された研修で、研修の実施主体は都道府県です。
副主任保育士、専門リーダー、職務分野別リーダーになるためには、キャリアアップ研修を受ける必要があります。
キャリアアップ研修には以下の8分野があり、役職ごとに必要な研修分野や数が決まっています。
- 乳児保育
- 幼児教育
- 障害児保育
- 食育・アレルギー対応
- 保健衛生・安全対策
- 保護者支援・子育て支援
- 保育実践
- マネジメント
研修時間は1分野15時間以上で、研修を修了した方には修了証が交付されます。
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手当の配分について
処遇改善は主任保育士、専門リーダーは月額4万円、職務分野別リーダーは月額5千円となっていますが、必ずこの額が役職のついている保育士全員に支給されるというわけではありません。
処遇改善加算Ⅱでは処遇改善対象者の人数分の助成金が園に入り、園の裁量で保育士に配分されます。
配分方法は以下の通り決められています。
- 副主任保育士、専門リーダーへの配分は、実際に月額4万円の賃金改善を行う職員を1人以上確保した上で、残りを副主任等、職務分野別リーダー等に配分する(月額5千円~4万円未満)
- 職務分野別リーダー等への配分は、加算対象人数以上確保する(月額5千円~副主任等の最低額)
- 法人内の他の施設の職員の賃金改善に充当可(令和4年度までの措置。加算額の20%の範囲内)
コンサルタント
参考:https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/administer/setsumeikai/h300820/pdf/s1-1.pdf#page=10 (平成 30 年度 子ども・子育て支援新制度 市町村向けセミナー資料)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/faq/pdf/jigyousya/youshiki/shikumi.pdf (技能・経験に応じた処遇改善等加算Ⅱの仕組み)
処遇改善加算の問題点と運用の改善
処遇改善加算のおかげで保育士の賃金は年々改善されてきていますが、実際のところ「あまり実感がない」という方もいるでしょう。
処遇改善加算の問題点として、処遇改善手当を適切に保育士に配分していない園があることが挙げられます。
令和元年には会計検査院の調査で、約7億円もの処遇改善の交付金が適切に使われていないことが判明しました。
処遇改善等の残額が生じた施設や翌年度も残額が賃金改善に充てられていない施設が一定数あったのです。
この問題を受けた政府は運用の改善として処遇改善加算額の使途や、残額が生じた際は翌年度に職員の賃金改善に充てているか確認することを明確化しました。
コンサルタント
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53652990R21C19A2CR0000 (保育士の賃金加算7億円使われず? 会計検査院指摘)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/faq/pdf/jigyousya/youshiki/r02-minaoshi.pdf (令和2年度における処遇改善等加算の運用の改善)
処遇改善はどこの園でも受けられる?
処遇改善加算Ⅰ、Ⅱは国からの助成金なので、対象は認可保育園のみです。
国から受給する際の手続きは保育園が行います。
全ての保育園が対象ではないので、処遇改善を受けたいと考えてる保育士は勤務先を選ぶ際に注意が必要です。
また、処遇改善の対象園であっても保育士個人に支給される処遇改善の金額は園によって異なります。
一般的には給与明細の「処遇改善手当」という項目でいくら支給されているか確認することができるでしょう。
保育士
パート保育士は手当がもらえない?処遇改善の対象者
処遇改善の対象者は処遇改善加算ⅠとⅡで異なります。
処遇改善加算Ⅰは全ての保育士の賃金のベースアップを図るためのものなので、非常勤職員を含む全ての職員が対象になっています。
パートやアルバイトの保育士だけでなく給食調理員や事務員など施設で働く職員全てが対象になっています。
処遇改善加算Ⅱは保育士のキャリアアップを目指すものなので、それぞれの役職ごとに対象者を定めらています。
副主任保育士と専門リーダーは経験年数概ね7年以上、職務分野別リーダーは概ね3年以上となっています。
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自治体による処遇改善
保育士の処遇改善は国だけでなく、都道府県や市区町村など地方自治体でも実施されています。
給料に上乗せで補助金が出たり、家賃補助が出たり処遇改善の内容は自治体ごとに様々です。
ここでは自治体による処遇改善の一例として東京都と浦安市を紹介します。
東京都の例
東京都では国の処遇改善制度とは別に独自のキャリアアップ補助として月額4万4千円の補助があります。
また、他にも区ごとに独自の処遇改善を行っています。
以下、江戸川区と大田区の例を紹介します。
処遇改善の内容 | |
江戸川区 | ・月額1万円の補助 ・常勤保育士は5年ごとに10万円の報奨金 |
大田区 | ・6ヵ月勤務した方に月額1万円の補助 |
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/meeting/kigyounai/k_3/pdf/s4.pdf (東京都の保育施策について)https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e047/kosodate/kosodate/oshigoto/hoikushishien.html (保育士の仕事と暮らしを力強くサポートします!)
https://ota-hoiku.jp/index.php?pg=blog.detail&get=18 (大田区の保育士支援制度)
千葉県浦安市の例
千葉県浦安市では、勤続年数に応じて月額最大6万円の給与上乗せがされる処遇改善を実施しています。
他にも保育士等の養成学校へ修学する費用の援助や、育休復帰後に市内の保育園に勤務する場合、市内の保育園への入園申請時に優遇される制度などもあります。
コンサルタント
キャリアアップ&給料アップのため処遇改善について理解しよう
保育士の処遇改善について解説してきました。
国による処遇改善加算制度により保育士の給料は年々上がってきています。
新たなキャリアアップの道筋も作られたので、今より給料を上げたい方は積極的にチャレンジしていきましょう。
ただ園によっては処遇改善が適切に保育士の賃金改善に使われていないなどの問題もあります。
より良い待遇で働くためには、保育士自身も処遇改善制度について理解し、自分の園ではきちんと賃金の改善が行われているか改めて確認してみることが大切です。
もし適切な処遇改善が行われていないと感じた場合、待遇の良い保育園へ転職するのも良いかもしれません。
良い待遇に向けて一人ひとりが意識をし、保育士の処遇改善に努めましょう。